IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

中島秀之氏(はこだて未来大学学長)ソフトウェア・シンポジウム2009in札幌【上】

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 ソフトウェア・シンポジウム2009in札幌(SS2009)の初日、札幌は曇りで最高気温は18℃と現地の5月下旬並み。会場となった「かでる2・7」(道民活動センター)は北海道庁の裏手にあり、目の前が北大植物園だ。ニセアカシアの綿毛が浮遊する爽やかな風と初夏の緑に包まれてシンポジウムがスタートした。はこだて未来大学学長・中島秀之氏による「新しい社会を創る情報技術~サービス工学の方法論を中心として」と題したオープニング・キーノートを採録する。

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旧北海道庁本庁舎。現道庁本社はこの裏手に建つ。 

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北海道庁に続く並木道。SS2009の会場となった「かでる2・7」の正面入り口は突き当たり(北大植物園)の交差点を左折したところ。空中に浮遊する白点は、ニセアカシアの綿毛。

モノとコトの哲学

中島 最初に〈モノ〉と〈コト〉について哲学をしますと、〈モノ〉というのは自分から切り離された客観的な存在、〈コト〉というのは自分自身がその中にいて何らかのかかわりを持つ事象といっていいかと思います。

 情報システムでいうと、ハードウェアは〈モノ〉、開発して出来あがるシステムも〈モノ〉だけれど、それを使って何をやるのか、広義のソフトウェアが〈コト〉に当たると考えています。〈モノ〉というのは西洋的な科学の対象になり得るのだけれど、〈コト〉は対象になりにくい。

 もうひとつ大事なのが「未来は予測するものではなく、自分で作り出すもの」というアラン・ケイ氏の言葉なんですけど、インベントの一つ手前にあるデザインに置き換えてみる。そうすると、コンピュータ・サイエンスという言葉はどうもおかしい。我われがやっているサービス工学、システム工学というのは〈コト〉の領域の話で、次の新しい社会を作り出していくための科学なんだろうと。

 これに関連して、「IT」というのを総務省は情報通信技術、「ICT」と言い換えて、これが国際標準の呼称だと言っているけれど、ネットワークというのは情報を伝える仕掛けに過ぎないんで、プロセッシングをどうして忘れちゃったかな、と思います。

 情報処理の両端には人がいるけれど、インターネットに代表される情報通信はデータを送るだけ。ある意味では物理層の一部であって、それはそれで重要だとは考えていますけれど、さてそれだけでいいのかとなると少し話が違ってくる。 向こう側とこちら側  たまたま、今日、ここに来る前にメールを読んでいたら、IT戦略本部が次のプランを出して、それに対して情報工学の関係者が注文というかコメントを出していた。昔から思っていたんですけど、IT戦略本部は〈モノ〉の話が多くて、〈コト〉の話が少ない。

 例えばアマゾンというサービスは旧来の本屋さんをインターネットに置き換えているだけで、コトを変えているわけではない。これまでにある〈モノ〉を新しい〈モノ〉に置き換えるのが、従来のコンピュータ化、IT化なわけで、政府はつまり、いまだにそこから踏み出せていない。

 次に示すのは梅田望夫さんが指摘した「Web2.0」、野口悠紀雄さんの「ジェネラル・パーパス・テクノロジー」ですが、両方に通低しているのは、インターネットでアメリカはどんどん変わっているけれど、日本はちっとも変わっていないじゃないの、という論旨です。わたしも函館地区の企業経営者の方に「ITは無限の可能性を持っていて、いろいろ便利に使えるんですよ」とお話することがあるんですが、なかなか分かってもらえない(笑)。

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