IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

及川秀悟氏 受託でクラウド型システム(2)

インターネットがきっかけ

――いまのお話だと、パソコン用の経理ソフト会社ですよね。オフコンがパソコンに変わっただけで、システム販売というビジネスモデルは変わっていない。それが転換したのはいつごろですか?
及川 きっかけになったのは、やっぱりインターネットですよ。Windows95が出て、インターネットが広がった。

――創業から10年目ですね。
及川 そう。ちょうど10年目にインターネットが登場した。直感的に、これはマーケティングツールだ、と思いました。それで基幹システムとインターネットをシームレスに連携するシステムを考えて、銀行からお金を借りて。

――会計とか在庫管理とかの延長線上で発想するなら、ERPですよね。
及川 地域の中小企業が望んでいたのは、管理系システムの増強じゃなくって、売上げを増やすこと、販路を広げることだったんです。インターネットを使って新しいお客さんを獲得すること、リピート顧客を増やすこと、それと地域を超えてビジネスパートナーを持つこと。顧客データベースをきっちり作って、過去の取引き履歴をもとにメールマガジンとかプッシュ型の情報を発信する。並行してプル型のマーケティングを行うこと。ところが自社にはインターネット系のエンジニアがいない。

――じゃ、どうしたんです?
及川 大学の学生に手伝ってもらいました。広島大学とか島根大学とか。学生と一緒にシステムを作っていくうちに、社員が技術をマスターしていったんです。それができたのはパソコン版の経理システムがあったからですよ。その利益を全部、インターネット・マーケティングのシステム開発に振り向けて。

――背水の陣ですか。
及川 パソコンはどんどん安くなっていく。そうなるとソフトの値段も下げざるを得ない。パッケージじゃ利益が出なくなるのは分かってましたから、とにかくインターネット・マーケティング・システムしかない、と。今から思えば必死だった。で、まず社内の技術が拡散しないようにしました。DBMSはPostgress、プログラミング言語はJavaとVB(Visual Basic)といった具合に標準を決めて。小っちゃい会社ですから、あれもこれも手を出すことはできない。全社員が共通の技術で勝負するっきゃない。お客さんはプログラムがほしいわけじゃありませんからね。

――集中と選択というわけだ。
及川 かっこよく言えばね。そうこうしているうちに、何とかシステムができて、売り始めたんですが、思ったように売れない。

――ユーザーの理解が得られなかったんですか。早すぎた?
及川 値段ですよ。お客さんは「そういう仕組みがあるといいよね」って言ってくれるんだけど、50万円の予算が取れない。30万円にしても売れない。営業マンが「社長、こうなったら15万円にしましょう」って言ってきたけど、さすがにそれはしなかった(笑)。

――それでSaaS? 当時はまだSaaSという言葉はなかったでしょうけど。
及川 いやいや、いきなりSaaSというわけじゃありませんでした。2001年に金沢工業大学の池田先生(池田誠氏:金沢工業大学大学院教授)と知り合って相談したら、「100万円にしたらどうだろう」って言うんです。そうした売れるようになった。

――30万円でも売れなかったのに?
及川 ユーザー層が違うんですよ。100万円にしたら、お客さんの規模が1ランクか2ランク上がる。そうすると、そういうユーザーはニーズがはっきりしているし、予算を計画的に取ることができる。インターネット・マーケティングのシステムを売っていた当社が、マーケティングができていなかった。

――「紺屋の白袴」という言葉がありますが、まさにその通りだったんですね。
及川 全くその通りでした。それで一息つくことができたんで、次に月額いくらのサービスを始めたんですね。サーバーやアプリケーションの使用料とかを基本料にして、トランザクション量に応じて月額料金をいただくかたちです。気がついたらSaaSサービスの売上げがパッケージを上回っていた。それと、新しいビジネスモデルですから、やっぱり本拠を東京に移そうと考えて、ぴこねっとに衣替えしました。


ユーザーのビジネスモデルも変える

――サービスモデルの料金設定。その方法というか考え方をうかがいます。基本となるのはパッケージの価格ですか?
及川 パッケージが何本売れたらいくらか。それをもとに月額利用料を設定するという考え方は取ってません。あくまでも、いくらだったらユーザーが利用してくれるか、です。

――具体的な金額を教えてもらえますか?
及川 規模とかサービスメニュー、トランザクション量にもよりますんで一律じゃないんですが、均すと1社当り月10万円前後といったところじゃないでしょうか。月80万円、100万円というお客さんもいますし、トランザクションが少ないと5万円以下ということもある。現在のユーザー数は約150社です。

――毎月100万円なら、パッケージを買って自分で運用したほうが安い。そういうことになりませんか?
及川 でも、自前のサーバーを用意しなけりゃならないし、運用要員も確保しなきゃならないでしょ? セキュリティ対策もある。トータルで考えたら、結局、安いんです。それとユーザーは経営資源を本業に集中できる。それは実は当社も同じでして、サーバーの運用は関西にあるデータセンターに任せています。そうじゃないと当社の付加が大きすぎる。ITベンダーの連携をうまく構築すれば、当社のような小さな会社でもクラウドサービスができます。

――なるほどね。それがインターネット時代のビジネスモデルなんですね。
及川 当社の大口ユーザーにね、ネット海外旅行の会社があるんです。その会社はインターネットで当社を探してコンタクトしてきて、当社が業務分析をやって、システム開発を受託しました。SaaSというかクラウドというか、そういうシステムですとWebの受注が24時間、ダイレクトに販売管理システムに反映されます。ですから、国内に営業マンを配置しておく必要がなくなった。国内に配置していた営業マンを海外に配置し直して、旅行者の現地受入れやサポートを強化することができた。社員は70人ぐらいで年間売上高は150億円以上ある。経営コストが抑制できる分、価格競争力が出る。

――お客さんのビジネスを加速した、ビジネスモデルを変えた、ということですよね。