IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

谷上俊二氏/(株)TDCソフトウェアエンジニアリング代表取締役【下】

“かかりつけ医”になろう

谷上 あまりそういう区分け方はしてません。「中堅・中小」と十把一絡げにするんじゃなくて、その会社の勢いというか、ビジョンというかを見ていきたい。  

――コンピュータ・メーカーやNTT系、“3,000億円クラブ”の業界大手がいる。そういう中で存在感を出せますか?

谷上 実際、こういうことがあるんです。ある中堅企業から引き合いがあって、コンピュータ・メーカーと競争になったんですけど、そのとき私が申し上げたのは、「御社の規模だと、メーカーさんは本気で取り組まないかも知れない。下請企業に再発注してしまう可能性もある。それだったら当社を選んでいただきたい。当社は真剣に取り組みます」と。それで当社に発注していただいて、たいへん喜んでいただいた。開発のあとも息の長~いお付き合いをしていきたい。それで私は社内で「お客様の“かかりつけ医”になろう」と言っている。  

――10年ほど前だったか、御社と同じような規模のソフト会社が「中堅ユーザーから見たIT幹事会社に」を標榜したことがありました。それを聞いて、非常にいいコンセプトだと思いました。というのは、売上高1,000億円以下の中堅企業のIT投資額は少なく見積もって2兆円から3兆円ある。トップ2,000社で8兆円程度だから、もし上手く行けば中堅ユーザーの市場で十分にやっていける。

谷上 わたしも自分の体験から、そう考えています。だって、大手さんにとって1億円、2億円の仕事は全体の1,000分の1、2,000分の1。仮に受注しても、片手間仕事になる。でも当社にとっては100分の1、200分の1ですから、プライム受注ができたら、当社は一所懸命に提案させていただくし、いろんな相談もお受けする。  

――ねらいどころは分かるんだけれど、じゃ、御社の現場が動くだろうか。この景況で減っているとはいえ、大口顧客からの仕事は、内容や進め方が分かっている。そこからどう脱皮していくか。それと、“かかりつけ医”を必要としている中堅ユーザーは、地方都市にいる。東京と大阪の2拠点だけでは、ちょっと心もとないように思いますが。

谷上 中堅ユーザーからお仕事をいただく営業のノウハウも必要だし。追い追いトライアルはしていきたい。 どんなサービスを用意するか  

――辛口の指摘をすると、“かかりつけ医”というのは目指す姿であって、何をするのが“かかりつけ医”なのか、それが重要じゃないですか。調剤薬局が医療サービスの役割を担おうとしているのは、超高齢社会に向けた在宅医療という前提があるわけです。すると、ソフトの受託開発が調剤薬局の機能とすると、医療サービスに対応するものが必要になる。

谷上 それでお配りした資料には、「ユーザーサイドでビジネスを行う」という文言を入れた。  

――これまで情報サービス業界は、「顧客ニーズ」とか「ノウハウ」と言ってきた。でもこれからより必要になるのは、「ウォンツ(wants)」と「ホワット(what)」なんでしょうね。

谷上 それと「ICT」という言葉を使った。これからは「IT」じゃないんじゃないか。ネットワークを使ったサービスの機能を当社の事業にどう取り込むかをもっと考えていかないと。  

――それに関連すると、先ほど、SaaS型ビジネスの話がありましたね。あれは具体的にどんなサービスなんですか?

谷上 当社はメインフレーム時代、通信周りのソフトをやっていたんですね。それで銀行の第2次、第3次オンラインを手がけてきて、その流れでインターネット・バンキングやECシステムの開発なんかを行っている。また携帯電話のビジネスユースが広がった2000年度、携帯電話向けの業務管理システムを作りました。携帯電話で位置確認ができる「Vehicle Chaser」、写真を使った報告書が作れる「HANDy TRUST」、セールスフォースのCRMをベースとする「Moobix Sync」とか。「Moobix Sync」は6,000件ほどの契約をいただいていて、クラウド時代に対応する準備を進めてきた。しかし全体で見れば、まだまだ細い。  

――それを太くしていく?

谷上 プロジェクトが終わったら次の案件というのは、それはそれとしてアリですが、利用していただくことで収益が出るビジネスも模索していきたい。  

――1980年代の後半、私たちメディアは、特注システムのプログラム作りから、パッケージ・ベースか一括受託型への転換で付加価値を高めないと、ソフト業はますます労働集約型になってしまう、と書いた。いまは労働集約型を通り越して、派遣労働型になって、多重受発注構造が様ざまな問題を生んでいる。

谷上 だからそれぞれの企業が特徴を生かした水平分業型へ、というわけです。例えば、当社の規模でSaaSクラウドのデータセンターを持てるかというと、それは難しい。自ずからデータセンター事業をやっている会社とパートナーシップを組んでいくことになる。そのような水平分業を目指していく。  

――地方都市に本社を置いている情報サービス会社にありがちなのは、意外と地元を見ていないこと。御社は大都市にしか事業所がないけれど、SaaS型アプリケーションを持っている。地方の中堅・中小ユーザーを開拓するには、地方のITベンダーと組むのも有力かもしれない。

谷上 そうできるといいですが、いずれにせよ性急にコトは成らない。具体策をお話しするには、もうちょっと時間をいただきたい。  

――最後に目標とする事業規模を。 谷上 10年後に500億円というところかな。正式なコメントじゃなくて、目見当ですが。

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東北なまり(秋田出身)が残る朴訥とした話し方には好感が持てた。記者懇に参加した記者からは「記事なるネタがほしかった」という声が聞かれたが、言葉の端々に改革の意欲を示す“含み”があったように思う。再び〈独立系の雄〉へ、どのような策を秘めているのだろうか。