IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

国分芳宏氏(言語工学研究所代表取締役)いま再びの日本語(1)

 仕様書用ワープロを作りませんか

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情報システムの要求仕様書用のワープロができないか、という筆者の問いかけに、「当社の構文解析技術を応用すれば、そんなに難しくないんじゃないか」という人が現れた。言語工学研究所の代表取締役・国分芳宏氏だ。1970年代からコンピュータによる日本語構文解析に取組み、パソコンソフトの創成期に日本語ワープロ「松」を開発したことで知られる。早速、東京・飯田橋のオフィスを訪問したところ、同氏は筆者と「一杯飲みながら」のつもりでいたらしい。ゴメンナサイ、全くの下戸なんですよ。

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――今日、うかがったのは要求仕様書用のワープロを作りましょう、っていうお誘いです。といって記者会には逆立ちしたってそんなお金はない。そこで国分さんのお話を記者会Reportで紹介して、「よし、一緒に作ろうじゃないか」という会社が手を挙げてくれるのを期待する、というわけです。

国分 といって、皆さんが「じゃやりましょう」ということになりますかね。ちょっと無理があるんじゃないかなぁ? それと佃さんが「仕様書用のワープロが必要だ」という事情というか、経緯がよく分からない。  

――そうでしたね。いきなりですから。これまでの経緯を話しますと、実はこれは私のアイデアじゃない。1年とちょっと前、ある方にインタビューしたとき、この話が出まして。「仕様書から曖昧性が排除されれば、プログラムの品質と生産性が向上し、システムの信頼性は飛躍的に高まる」というわけです。その方は「“など”撲滅運動」と言ってましたけど。ことあるごとにこの話をしてきたところ、クレオの土屋さん(淳一氏、同社社長)が「国分さんがいるじゃないか」と。

国分 なるほどね。私はかれこれ40年、日本語の構文解析にかかわっているけれど、要求仕様書用のワープロっていう発想はなかった。われわれはどうしても汎用性を考えてしまう。  

――そりゃビジネスですから。いくらいい製品を作ったって、売れなけりゃビジネスとして成り立たない。でも要求仕様書や技術仕様書の市場は決して小さくないと思いますよ。情報産業の分野に限ると、直接かかわっているエンジニアはユーザーサイドの人も含めてざっと130万人はいる。教育機関や海外を加えると200万人以上。とりあえずその1割が利用するとして、潜在的な市場規模は20万ユーザーぐらいと見ておけばいいんじゃないでしょうか。

 

プログラム作りに直結する

国分 いわれてみると確かに。ただ私はこれまで、エンタープライズ系のシステム開発とちょっと距離をおいてやってきたものだから、仕様書とプログラミング作りの具体的な関係が分からない。仕様書をちゃんと書きましょう、っていうのはもちろん分かるけど、そうなると仕様書専用ワープロのユーザーは限られるでしょう。  

――受け売りですけど、我われが日常的に使っている言葉で記述した文章から、「to do」を抽出していく。形容詞や副詞、接続詞を削りに削って、最後は《○○する》に収斂させていく。そうすると、これってそのままプログラムに置き換えられるんじゃないか。

国分 理屈ではそうですね。  

――これも又聞きの受け売りですけど、「VDM」っていう工学的なシステム開発手法がある。オーストリアのウィーンで開発されたんでV、DMはデベロプメント・メソッド。JRのSuicaに使われている組込みプログラムの開発に採用されたりしているんだそうです。もちろんビジネスアプリケーションにも適用できる。非常に優れた手法として実証されているだけど、使いこなすエンジニアの数が限られている。VDMに適した日本語の仕様書作成ツールがあれば、利用が一挙に広がるんじゃないか。そう考えている。

国分 VDMというものをよく知らないんで……。あとで調べてみますけど、それを使うとソフトウェアの自動化が実現するかもしれない、っていうことですか?  

――アジャイル手法とかプログラム・モジュールの活用でプログラムを作るプロセスはそこそこ短縮されるかもしれないけれど、自動化っていうのは、そんな簡単なことじゃないでしょう。それ以上に重要なのは、品質がアップするかどうか、ですよ。VDMはその可能性を持っている。

国分 何となく分かります。  ――ところで、失礼ながら私は国分さんの研究をよく知らないまま、土屋さんに言われてすっ飛んできたようなもんでして。分かりやすく説明していただけますか? 国分 え~と、じゃ、去年の8月に作った資料で説明しようかな。「構文解析」というのと「シソーラス」っていうプリント。それに沿って説明しますね。  

――技術屋じゃないんで、そこのところお願いします。

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この記事は2009年3月現在です。