IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

清水吉男氏が遺した「ペアXDDP」の本意 ~派生開発カンファレンス2018から~(2)

ベテラン技術者の尊厳を取り戻す

古畑 梶本さん、ありがとうございました。

 どの企業もソフト開発の仕事をオフショアに出してしまって… …という思いが、清水さんには強かったんだと思います。それで、ちょっと最初の方にもどっていただいて……。

 先ほどの資料の中に「IoT」にかかわるページがありましたよね?

梶本 えっと、これかな?

古畑 それって、これからのソフト開発で非常に重要なところだと思うので、説明していただけますか。

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梶本 これはですね、これからの時代は必ずソフトウェア・ディファインドの時代になる。いま、ソフト開発の技術やノウハウがどんどん海外に出て行っているときに、日本のソフトウェア産業、ソフトウェア技術者をどうすればいいか、というのが清水さんの憂慮でした。

古畑 今日はコンサルタントして活躍なさっている芝本さんがいらっしゃるんで、「ペアXDDP」に関連して、ソフト開発の現場で何が課題なのか、そのあたりお話いただけますか。

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芝本秀徳氏

芝本 芝本です。

 「ペアXDDP」について補足すると、清水さんがよくおっしゃってらしたのは、日本はこれからソフトウェアで国際競争力を維持していくしかない。そのとき競争力の源泉であるソフトウェアの設計というものを安易に海外に依存していいのか、ということです。実際、私もビジネスの現場で強く感じるんですが、設計できないエンジニアがどんどん増えている。日々の部分最適を追求するエンジニアが増えて、コードを修正することが仕事になっている。お客さんのところに行って話を聞けない。そういうエンジニアが増殖しているというのが実感です。

 「ペアXDDP」に関連して清水さんから聞いていたのは、かつて現場でバリバリだったエンジニアが社内にいる。だけど活用できていない。その状況をなんとか打破したい、ということでした。清水さん独特の表現だと思うのですが、「ベテラン技術者の尊厳を取り戻す」ということです。

梶本 そういう中でもう一つの課題となっているのは、新規開発との兼ね合いです。保守改造と新規開発をパラレルでやっていかなければならない。そのとき新規開発の時間をどう作るかです。

 「ペアXDDP」でベテラン技術者が活躍できる場を作れば、派生開発の生産性、精度が格段に向上し、工期を短縮することができます。その余剰時間を新規開発に回すことができる。そうすることで開発技術を取り戻すんだ。それが清水さんのお考えでしたね。

ソフトウェアのグランドデザイン

古畑 なんだか懐かしいというか、いまの梶本さんのお話はXDDPの原点のような感じがするのですが、協議会副代表の渡辺さん、いまのお話について、経営者の立場からいかがでしょう。

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渡辺博之氏

渡辺 そうですね。あの~、皆さんも最近、たぶん感じておられるでしょうが、今の時代ってキーワードは「スマート」じゃないですか。その「スマート」で何が実現するかというと、賢い組込みソフトウェアが動いて「スマート」を実現しているわけです。

 たぶんですね、日本はモノづくりだと言いながら、たぶんモノづくりではなくてソフトウェア作りでやっていかないと、「スマート」の時代に勝てません。そういう状況になっているんじゃないか、と思っています。

 そんな状況で、ソフトウェア作りがどんどん重要になっているなかで、われわれがこういう……、オフショアという形で自ら力を弱めてしまった。一昨年のカンファレンスで清水さんがお話しになったのは、電気自動車、テスラですよね。あれは、ハードウェアはほとんどはめ殺しで、一つだけにして、ソフトウェアでいろいろバリエーションを作って機能を拡張していく。発想的にはモノづくりの視点ではなくて、ソフトウェアの視点なんですね。ソフトウェアでどうやって価値を出していくか、ということです。

 いま思っているのは、ソフトウェアのグランドデザインを作る人がいなくなった、ということです。ソフトウェアをどうやって作るか、それを考えないで、みんな現場でいきなり戦っちゃう。いい道具はいっぱいあるんですけど、戦略を作るシーンで使うべき道具を現場の総力戦に投入しているんですね。

 清水さんがおっしゃっていたときほど、今は時間が残されていなくて、それは皆さんも同じように感じておられると思うのですが、いまこの瞬間に負けてしまうと、次はない。私はそのくらいの危機感を持っています。

古畑 渡辺さん、ありがとうございました。

 整理してみると、清水さんがXDDPを考案したのは、日本のソフトウェア産業をなんとかしないと……という「ソフトウェア産業への憂い」。そのためには技術が必要だ。渡辺さんがお話しになられたように戦略も要る。

 もう一つは、現場に適切なソフトウェア技術者がいないということ。

 三つ目は「ソフトウェア技術者への憂い」で、現場でバリバリやっていたエンジニアが年齢とともに管理者になって、技術者としての本来の仕事をしていないんじゃないか。ソフトウェアを作りたくて会社に入ったのに、モノづくりをしたくて会社に入ったのに、それができていない。

 XDDPの原点を確認しつつ、これから清水さんとのかかわりに移していくことにします。                        (以下別稿)

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基調対談のテーマは《清水吉男氏が「ペアXDDP」を通じて伝えたかったもの》だった