IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

【アーカイブス】IT取引環境を巡る現状と動向の把握〜大手企業の取り組みを探る〜(2009年6月)①

 外付けハードディスクを整理していたら、2009年6月、情報サービス産業協会(JISA)の経営改革委員会で行った講演の録音データが出てきました。きっかけはこの6月、公正取引委員会が「ソフトウェア業の下請取引等 に関する実態調査報告書」を公表したこと。ちょっと長いのでいくつかに分割します。13年も前のことなので、現在と事情が違っていることをご承知おきください。

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今日のお話しは「市場動向と取引環境を巡る現状と動向の把握」というタイトルです。サブタイトルが「大手ユーザーCIOに聞く」となっているように、平たくいうと、ITの投資と調達について、発注者が何を考え、どういう方向を指向しているのかをインタビューしました。

■大手10社のCIOにヒアリング

 実施したのは昨年の10、11月で、23社に主旨を説明しヒアリングをお願いし、10社のOKをいただきました。それとお付き合いがある地方公共団体、ヒアリングしたのは2団体ですが、電話とメールで取材したのが10団体となっています。

 具体的に言いますと、名前を聞けば誰もが「ああ、あの……」と分かる大手企業10社と地方公共団体、業種でいうと食品、鉄鋼、電機、建設、化学、運輸、クレジットといった企業のCIOにヒアリングを行いました。テーマはIT調達プロセスとIT予算の今後についてです。

 下敷きになっているのは、2007年4 月に経済産業省の産業構造審議会が公表した「情報システム信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会報告書」です。システム構築における発注者と受注者の責任分担や契約、情報子会社の位置づけ、情報サービス産業会の多重下請け構造や多重派遣などをどう見ているか。そのうえで今後、情報サービス業が指向すべき方向性を探るのが目的でした。

 抽象的なテーマで、取材するほうも取材されるほうも戸惑いがあったようでした。またヒアリング期間が2か月と短かったこともあって、調査に参加した取材歴10年以上の記者諸君の感想は「難しかった」というものでした。

無視できない多重下請け構造と多重派遣

 で、今回の調査の概要をお話し前に、図1をやっつけておきます。多重下請け構造の実態です。

 今回のお話しと直接の関係はありませんが、これからこの業界にとって重要なテーマになるだろうと思います。というより取引構造の変化に多重下請け構造は無視できません。多重下請け構造が多重派遣を誘発しているわけです。

 これは私どもが独自に行った調査をグラフにしたものです。調査は今年の2月、郵送やメールで8200社に調査票を送付し、取引ポジションについて1654社から回答がありました。

図1 売上高規模別に見た取引ポジション

表1 取引ポジション回答の集計

 取引ポジションを見ると、「元請け」が47.3%、「2次請け」が31.3%、が「3次請け」が12.5%、「4次以下」が8.9%ありました。売上高の割合で集計していますので、「4次以下」の仕事は自ずから小さい会社に行くわけですから、ウエイトは決して小さくありません。

■「下請け」忌避バイアス

 面白いのは「2次請け」「3次請け」と回答している会社の主要な取引先を見ると、同業の企業が少なくないことです。小さなソフト会社から見ると、まとまった仕事を出してくれる会社が元請け、自分たちは2次請けなんですね。

 地方の場合ですと、仕事先が首都圏や関西圏の場合、仕事を出してくれた地元の上位企業は2次請けと考えますから、自分たちは3次請けだろうというわけです。なるべく上位に位置していたい元請け願望といいますか、「下請けは本当はしたくないけれど、今は止むを得ずなんだよな」という下請け忌避バイアスが働いて、実態を見ようとしない傾向があるようです。

 そこで実際に出向いてヒアリングすると、「元請け」のはずのソフト会社は首都圏のより大手のソフト会社から仕事をもらっていて、首都圏の大手のソフト会社はメーカー系ソフト子会社から受注している。メーカー系ソフト子会社は親会社が契約主で、その上にNTTのグループ会社だったりユーザー系情報子会社がいる。

 つまり「自分たちは2次請けだ」と言っているソフト会社は、実際は5次請けか6次請け……、ユーザー系情報子会社はユーザーと一体、メーカー系ソフト子会社はメーカーと一体として、ですが。そこに事務機器の販売会社ですとか印刷会社とか、ソフトウェア開発とあまり縁がない会社が入ってきたりします。

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