IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

【アーカイブス】IT取引環境を巡る現状と動向の把握〜大手企業の取り組みを探る〜(2009年6月)⑤

 以下は今回のヒアリングで得た事例です。社名は伏せます。

図4 A社(日配食費メーカー)のIT調達体制

 図4はA社(日配食品メーカー)の事例です。魚肉をつかった揚げ物や蒲鉾などを作っています。こう言えばどこのことかすぐ分かるかもしれません。「小売店から10個。20個の注文でも届ける」という多品種少量のサプライチェーンを展開しています。

 一方、原材料となる魚の仕入れを的確にしなければならない。市場で売れ残った魚を仕入れるには、リアルタイムなデータ収集と配信が必須となります。毎日の注文と配送を正確に処理するシステムが求められる。

 情報システムの担当者のトップは、そもそもは工場の主任さんで、材料のこと、製造工程のこと、職場のルールなどに精通していました。その方がいま情報システムのトップに立っています。

 この会社にはCIOという職席はありませんが、グループ経営会議の下に企画本部があって、ここが情報システムのすべてを統括している。経営会議の了承がない限り、システム開発には着手できない。メインになるITベンダーがいて、情報子会社と連携して業務を遂行する。仕様策定とシステム作りの役割がきっちり分かれています。

意外に重要な人間系の環境整備

 B社(鉄鋼メーカー)の例はシステム統合の好例だと思います。どちらか一方の既存システムに”片寄せ”するのでなく、それぞれのシステムのいいところを残して、両社の本社IT部門と情報子会社のスタッフが一体になって統合に取り組んだ。そのために両者で泊りがけの合宿をやって、意思疎通を円滑にして……と、ITじゃなくてきわめてアナログ的な手法を取っています。

 副社長の直下でIT改革推進部と購買部門かが連携し、2つの情報子会社が役割を分担して実務を推進しています。要求仕様の策定とシステムを作る仕事、システムを運用する仕事を切り分けて、すべてRFP、評価、契約というプロセスをもとにしています。たいへんに大きな会社ですから、実際には困難なこともあったと思いますし、こんなに整理された形だったかどうか分かりません。ただ短期間でシステム統合を成し遂げたわけですから、統制はかなり利いていたと思います。

図5 B社(鉄鋼メーカー)の体制

図6 技術評価グループが主導:C社(電子部品メーカー)

 図6はC社(大阪の電子部品メーカー)です。この会社は先進的で、Linuxを1990年代の初めから使っていた。いま現在このグループの中で動いているサーバーの7割はLinuxで動いています。情報子会社がありますが、本社の情報システム部、特に技術評価グループが、ITベンダーの要員教育、技術サポート、現場の運用指導をやるということで、非常に力を持っています。

■外注費ゼロの事例もある

 D社(化学メーカー)のIT推進モデルが図7です。この会社は、工場の現場の方々が自分たちでプログラムを作って、とうとう主力工場のプロセス・コントロール・システムを完成させてしまった。外注費ゼロという会社です。

 昔は3千人以上の工員さんが働いていた。その3千数百人でコントロールしていたプラント制御システムを、現在は190人で運用しています。工場の中は無人です。工場の中には人っ子一人いません。

 中央コントロールセンターというところに190人が3交代で詰めていますから、常時いるのは60人から70人です。ですから、そこまでコスト削減しています。なおかつ情報化ということについて言うと、昔の100に対して現在はたぶん10ぐらいまで下がっているのではないか。自分たちが作ったシステムですから、メンテナンスも全部自分たちでやってしまいます。

図7 D社(化学メーカー)のIT推進体制

IT予算減の背景に「自分で作る」

 予算に行きましょう。皆さんの興味があるところだと思います。

 最初に紹介したA社(日配食品メーカー)の場合、5年前を100とすると、現在は7割です。3割落としました。昔は合計でサーバーが約50台ありました。50台ということは、各県に1台あったということです。その50台あったサーバーが現在は2台です。サーバーを統合しました。TCOを削減して、現在7割です。

 C社(電子部品メーカー)も、5年間で7割まで圧縮しています。この会社はPCS(パンチカード・システム)の時代からコンピュータ利用の先端にいた歴史がありまして、自社の情報システムの方向性を決める情報管理推進委員会が1970年代から機能しています。

 それからE自治体(九州の某県)は、民間からコンバートされた方がCIOとして全体を統括していて、5年後にメインフレームをなくすと言っています。その間にやっているのはBPRです。組織の見直し、あるいは重複している手続の見直し、それからデータの流れそのものをショートカットする、あるいは無駄を省くという作業をやっています。

 要求仕様書を自分たちで作る、丸投げはしないんだということを全面に掲げて、現実に情報管理部門に他の部署から来た素人の職員が、3カ月で要求仕様書を書けるようになっています。ペーパープロトタイピングの手法を採用したもので、非常に分かりやすい仕様書でした。

 その方にも直接聞きました。2週間ぐらいで休日出勤管理システムを作ったんだそうです。プログラム作りは地元のベンダーに発注して、もちろん自分たちで作れるところは作って、ということです。

 すべての企業で数字は聞けませんでしたが、概略、5年前と比べるとIT予算は少なくとも3割は減っている感じでした。IT需要は根強いけれど、これまでのように予算がついて情報サービス業に発注されるかどうか、懸念を覚えます。