IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

【アーカイブス】IT取引環境を巡る現状と動向の把握〜大手企業の取り組みを探る〜(2009年6月)③

 さて今回、ヒアリングしたほとんどの企業は売上高が兆の単位の企業です。無作為的に取材をお願いしましたが、もちろん断られた会社もあります。

 ヒアリングを受けてくれた企業は、それなりに自信があるからです。ではお断りになった会社がみんな自信がないかというとそうではなくて、ちょうどリプレース中とか、超繁忙でそんな時間はないといった会社が数社ありました。ですが間違いないのは、ヒアリングを受けていただいた企業の大半はやはり自信があって、ちゃんと主張したいものがあるということです。

 それからヒアリングした10社のうちの1社は、自分たちが構築したシステムをベースに、同業他社に有償のコンサルティングをやっています。ライバル企業にシステム構築のノウハウを教えて、それでちゃんとお金をもらっている。そういうユーザーが増えてきたら、受託一本足の情報サービスはやることがなくなっちゃいませんかね。

Y2Kを前に1997年ごろから見直し

 10社に共通しているのは、1997年ぐらいから、ちょうどいまから10年ほど前から、これまでのシステムの作り方でいいのかという見直しを始めています。10社のうち7社が同じようなことをおっしゃっています。

 真っ先にあがったのは、コンピュータ2000年(Y2K)問題でした。ここでレガシー、COBOL資産をどうするか、という問題にぶつかっています。それからクライアント・サーバーというか、サーバーがあちこちに立って管理ができなくなったり、データとアプリケーションがあちこちに分散して、管理コストが大きくなってきたという問題です。

 第2はインターネットや携帯電話が広がった。1997年のころには電子マネーというのはまだ普及していませんでしたし、Webアプリケーションも存在感がなかった。いずれにせよ、デジル経済社会が見えてきた。そうすると、いままでのような自分たちの事業モデルでいいのかという疑問か出てきた。

 第3は当然ですが、競争力の強化。これは事業というものをサービス化して、物をつくって売るというだけではなくて、そこにいかに付加価値を付けていくかが重要になってきた。

■情報子会社をどうするか

 第4は情報子会社の問題。情報子会社が1980年代の半ばから後半にかけて、主に労務管理の問題、あるいは人材育成の関係から分社したりしているわけです。それから20年ほどたって、当時は現場の方が子会社に行きましたが、プロパーが育ち、初期の方々が定年で引退していく。人的なつながりも薄くなるし、本社から離れたことによって業務の知識も薄くなっていく。ということで、情報子会社がお荷物とまでいかなくとも、これまでと同じ位置づけでいいのかという見直しが始まっています。

 第5は情報セキュリティと信頼性の問題です。過日(2月25日)も信組のシステムトラブルがありましたし、2002年のみずほ銀行、東証のシステムトラブル、全日空の発券トラブル等、社会問題になるような大きなトラブルがここに来て起こっています。何とか防止しなければ、という認識が高まっています。

ガバナンスとコンプライアンス

 非IT要因では、低金利時代の景気の先行き不透明感があります。いままでのモでルで安定した成長が維持できるのかという経営的な問題。

 それから団塊世代です。これから団塊世代が大量に退職していく。どうするんだ。彼らが持っているノウハウや技術をどうやって継承するのかという問題。ふと気づいたら、社員はキーを打っているだけ。キーオぺレータになっている。これはいかんという反省です。

 もちろんガバナンスとコンプライアンス。それから事業の継続性。これはアメリカで起こった同時多発テロ、9.11事件ですね。それとシステムトラブルへの対応策。非正規雇用者の増加も、ノウハウをどう継承するかという問題にかかわってきます。

■少子高齢社会への対応も

 それから市場構造が変化した。少子高齢社会になる。消費者の好みが変わる。高齢者の消費量、購買力が落ちる。自動車が売れなくなるとか、これから毒入冷凍ギョーザ事件で冷凍食品が売れなくなるかもしれない。そういう話です。  これを整理したのが図3です。

 大雑把に2000年で線を引きました。2000年以前、IT予算は「投資」という位置づけでしたが、現在は「コスト」という意識に変わっています。これはいくつかの企業で共通していました。はっきり「IT予算はコストに決まっている」と言っています。

図3 ITシステムの見直し要因

 これまで、ユーザーはSLCP(Software LifeCycle Process)を重視していました。いまは何かというとPDCA(Plan-Do-Check-Action)だと言っています。そもそもSLCPとPDCAは対置するものではないので、PDCAの比重が増しているということかもしれません。

■メインフレームは塩漬け

 その大きな理由は何かというと、メインフレーム系ないしは基幹業務系のシステムを拡張しない、塩漬けという状態です。新しい機能は、専用のサーバーないしFEP(Front End Precessor)みたいなかたちで外付けする。基幹系のデータべースなどはCOBOLでガチガチになってしまっていて、そういうものは寝かせておいてあまりいじらない。PDCAで費用対効果をきちっ測りながら進めていこうというわけです。

 部門ごとのサーバー調達とか支社・支店でのシステム発注、これを全面的に止めて、まず全社の共通基盤を作って本社のIT部門が一元的に管理する。マウス1個までとは言いませんが、「パソコン1台でも本社決裁にする。ソフトウエアもすべて」と言っています。

 全体を見ると、部分最適から全体最適というところに焦点が移っているといえると思います。これまではITは自分たちの本来の仕事ではないから外出しして、自分たちは本業でちゃんと稼げばいいと考えていました。ところが、はたとITなかりせば本業が成り立たないことに気がついた。ITこそが実は自分たちの企業活動の根幹だったと、そういう理解が進んだ。それがこの5年間の変化です。

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