IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

【アーカイブス】IT取引環境を巡る現状と動向の把握〜大手企業の取り組みを探る〜(2009年6月)⑥最終回

 自治体の話を続けます。

 徳島県は今年から長崎県のモデルを導入して、まず要求仕様書を自分たちで作ることから始めています。福岡県庁はオープンソースの先行事例です。それから自分たちで作ったアプリケーションを他の県に公開しています。

地方自治体も活発に動いている

 市町村になると、富山県南砺市は、市町村合併で8つの町村が合併しました、そのときにアウトソーシングも含めて全体のシステムを見直しました。面白いのは、この市には本庁舎がありません。8つの旧町村の建物が庁舎で、市議会は持ち回りでやっている。

 本庁を定めず、8つの支所で住民は全く同じサービスを受けることができる。合併を機に行政の窓口を3つ、住民に関すること、産業に関すること、公共サービスに関わることに整理して、そこにいけばすべての手続きができるようにした。この南砺市のモデルを導入しているのが長野県安曇野市です。行政の仕組みそのものが変わってきています。

 前橋市は再来年の3月にメインフレームを撤去します。これで群馬県の市町村からメインフレームはゼロになります。千葉県の市川市は、非常にユニークなCIOがいらして、この方が現在サーバーとシンクライアント、メインフレーム撤去ということで、向こう3年間ぐらいで全部シンクライアントにするという大きな計画です。

 佐賀市はオープンソースの……、というより、韓国のITベンダーにシステム開発を頼んだことで知られています。そのために韓国の会社の社長さんまで来られて、苦労したけれどシステムを完成させた。沖縄の浦添市も頑張っています。ここはBPRから入っていって、オープンソースを駆使して情報システムの開発をやっていらっしゃる。コストというだけでなく、オープンソースを採用することで情報システムの透明性を確保し、同時に地場のIT産業を育成していこうというねらいもあります。

 というようなわけで、地方公共団体もガバナンスが求められ、IT調達の見直しが活発に行われています。

IT調達の3モデルを想定してみた

図8 これまでのIT調達方式

図9 ちょっと整理したらこんな感じ

図10 できればこういう形に

 図8はこれまでのIT調達方式です。現実はこんなものではない、もっとややこしいという指摘もあるかと思いますが、要するに、これまでは本社の企画部門が情報子会社に「こういうシステムを作れ」と要求を投げる。現業部門から「これをやってちょうだい」と言ってくる。

 情報子会社にどんどんバックログがたまって、しょうがないから第4世代言語でプログラムを書いた。かと思ったら、現場の支店とか工場が独自の電算部門を持ったり外部のITベンダーに発注して個別にシステムを作り始める。加えてこの業界の多重下請け構造、中央と地方の階層構造というか乖離がある。

 今回の調査を通じて、これぐらいまでにはだいたい整理されているのかなという感じで作ったのが図9です。実態はまだ図8図9の間ぐらいかもしれませんが、図9は当面の目標で、最終的には図10に向かっているような気がします。ここでは「明確な要求」「明確な責任」「明確な役割分担」がポイントです。少なくとも要求仕様は自分たちで作り、それについては自分たちで責任を負うという意識です。

 情報子会社と一緒にやりますが、そのときには品質評価手法まで一緒に作るという発想です。ここのところはRFPをきっちりやって請負契約でプライムとの間を結んで、役割分担とSLA(Service Level Agreement)をきちっと決めようという、つまり明確な責任範囲を取り決めようというユーザーが出てきている。そうではないユーザーもいっぱいいると思いますが。

JISA会員が目指すべきはIT主幹事

 ヒアリングしたユーザーの皆さんはここまで具体的にはおっしゃっていません。ですが、「IT主幹事会社」というような、そういう立ち位置をJISAの皆さんは目指すべきではないかと思います。一緒に技術評価委員会を構成して、場合によっては詳細設計にも参加してもらって、そのIT主幹事会社さんにサブコントラクタや実行部隊を推薦してもらいたい。たぶんユーザーはこういうことを考えているのではないかと思います。

 そこで最初にお見せした外注費比率と営業利益率の相関図です。外注費の比率が30%を下回るところに来ると、たぶん利益率の減少角度はもうちょっと緩やかになっていくと思っています。

 以上で私の話は終わりです。ありがとうございました。(拍手)