IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

JISTAパネルディスカッション「ポスト2020問題とITストラテジストのあり方」(後編)

年が明けて1月26日、東京・春日の文京区民センターで開かれた日本ITストラテジスト協会(JISTA)関東支部の1月例会で、昨年11月16日の「続き」をすることになった。モデレータは前回と変わらず富田良治氏、パネラーは赤沼直子、満川一彦、諸葛隆太郎の三氏だった(仲尾健氏は都合で欠席)。

筆者がしばしば出くわすのは、司会者がパネラーを順番に指名してコメントを求め、そのうち時間がやってくるワンウェイ型だ。しかしJISTAのパネルディスカッションは、パネラーは考えるきっかけを作る役目、意見交換は全員参加で、が"いつも"であるらしい。

 会場の発言は、前編に「会場A」「同B」「同C」が登場している。後編は「会場D」からとした。

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やっていることは30年前とあまり変わらない

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モデレータ:富田 前回のオープンフォーラムの続きということで、前回と同じパネラーの方々によるパネルディスカッションです。よろしくお願いします。

オープンフォーラムのパネルディスカッションが盛り上がったのは覚えているんですが、何せ2か月も前のことなので、細かいところは覚えていないんですね(笑)。おそらくこんなことを話したんじゃないのかな、と思い出しながらパネルを進めていきたいと考えています。

で、前回のパネルで、経営とITを結びつけて戦略を立案し、実装を推進するのがITストラテジストなんだけれど、経営の視点で戦略的なIT投資を考えるCIOがちゃんとその仕事を果たしていないんじゃないか、というところまで話が進みました。今日は仲尾さんがお仕事でいらっしゃれないとのことですが、前回と同じ赤沼さん、満川さん、諸葛さんにパネラーを務めていただきます。それと、会場の皆さんもどんどん参加していただければ、と思います。

では座り順の逆、諸葛さんから一言づつ、お願いします。

諸葛 はい、諸葛です。前回はものすごく消化不良で、「続き」を企画していただいてよかったと思います。ユーザー側で基幹システムを企画している立場でいうと、現在の多くの企業は「2025年問題」を乗り越える力を持っていないように思えます。システム設計やプログラミングの技術を持った人は多勢いるんですが、戦略を立案し推進するCIOないしITシステムの統括者が機能していないんですね。ITに関するユーザー側のナレッジが不足している……というか枯渇している感じです。

満川 オープンフォーラムのときも話したんですが、DXについて考えると、やっていることは30年前とあまり変わっていないんじゃないか、と思います。もちろん使い方は違います。でも目的は一緒じゃないかな、と。CIO、ITストラテジストの仕事が重要という点では皆さんと同じですが、もう一つ、現場の意識をどう変えるかもたいせつだと思うんですね。現場が付いてきてくれないと、どんなにいいシステムを作っても使われない。そんなことを感じています。

赤沼 え〜と、実は今日は日曜日なんで、午前中は洗濯物がたまってまして(笑)、おまけにお皿も洗わないといけないし……(笑笑)。それをやっつけて、ここにやってきました。

 (笑いと拍手)

赤沼 で、いまわたし、皆さんに問題提起というか、ケンカを売ってます。異論、反論があったらどうぞ発言なさってください。 前回もそうですが、こういう話になると必ず「戦略的CIO」という言葉が出てきます。敢えて言いますと、この国では無理です。「戦略的なんちゃら」はこの国に向かないんです。非常にいいアイデアを持っている方もいると思うんですが、実際にシステムを使う方々との間にギャップがあって、そこを埋める「ITのお母さん」がいないんです。どういうことかというと、企画を立ててシステムを作って、現場からのクレームも引き受けて最後まで面倒を見る。そういう人がいないと、DXは進まないし崖は越えられないんじゃないか、と。

CxOだらけだから戦略的CIOが育たない

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諸葛 わたしもこれまでに「戦略的CIO」と呼べる人に会ったことはないですね。ですがそれに近い人はいて、そういう人は必ず現場に降りてくるんですよ。ITだけじゃなくて、現場の仕事の流れを知ろうとする。現場に即したシステムを企画するんだけれど、予算化したりIT部門を指揮する力が与えられていない。とはいえ、そういう人たちがいるから、ちょっとずつ進んでいるとも言えます。

富田 なんでCIOが育たないんですかね?

満川 わたしはCIOの育成をしているわけじゃないんですが……(笑)。一つ気がつくのはCxO(シー・バツ・オー:注1)が多すぎるんですね。CEO、COO、CTO、CIOだけじゃなく、CAO、CBO、CCO、CDOとか。CIOってスキルはものすごく高いんだけれど、CxOの中で地位は低いんじゃないかな。規模が大きくなるとCxOがお互いのテリトリーを守るというか相互不可侵で牽制し合うんで、ますますうまく行かなくなる。

 (注1)CxO  https://forbesjapan.com/articles/detail/18932

富田 戦略的CIOに準じる人はいるんだけれど、実行する力がない、与えられていない。そのあたりについて、赤沼さん、何かガツンと。

赤沼 わたしは中小企業診断士でもありまして、その視点から申しますと、日本の企業って実は組織じゃないんですね。モリカケ問題も桜を見る会もそうですけど、あれってみんな忖度じゃないですか。企業では業務のルールが決まっているんだけれど、実際は忖度で動いている。下の人が上の人の気持ちを読んで動いている。それでうまく回っている。

製造業なんかはそれで何とかなるんです。モノづくりの工程は忖度ではないならです。ところがITになると、ITが分かる・分からない、使える・使えないで明確に分かれちゃうので、忖度が通じない。部下が上司を忖度しようにもシステムは受け付けてくれない。そういうギャップもあるのかなぁ、と思います。

富田 なんだか出てくるのは「ダメ論」ばかりですけれど、会場の皆さんの中で、ウチはこんなふうにうまくやってるよ、そういう会社を知ってるよ、という方、おられませんか。いらしたらぜひ声をあげていただきたいのですが……。

 (会場、一瞬シ〜ン、次いでザワザワ)

現場に行って知識を行動で展開する

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 (ややあって会場から「あの……」の声)

富田 あ、どうぞ。

会場D わたしが所属している会社は創業から50年ほど経つんですが、所属している部署はベンチャー的な事業部門です。新規事業としてスタートしてまだ20年経っていないんで、最初に立ち上げた人がそのまま上司にいて、全体を俯瞰しながら各課の担当者にある程度の権限を与えて、他の部署と部門横断的に動いている。上に立つ人が大方針を立てて、部下に権限を与えて、部門部署の課題を全体の課題として解決していく。それでうまく回っている感じですね。

 (拍手)

富田 いい事例を紹介していただきました。では、それができていない会社がやるにはどうすればいいか、ですが。

会場E BABOK(バボック:Business Analysis Body Of Knowledge/

ビジネスアナリシス知識体系ガイド:注2)の勉強をする。

富田 BABOKですか。それならできそうな気がしますか?

会場F 大阪で勤めていたとき、BABOKを勉強する機会がありまして、これだったら、いろいろやれるんじゃないかな、と感じたことがあります。

富田 現場に降りて行って一緒に動くことがたいせつということですかね。BABOKにしてもPMBOK(Project Management Body of Knowledge/プロジェクトマネジメント知識体系ガイド:注3)にしても、知識を現場に展開できるかどうかにかかっているとすると、じゃぁ現場に展開するにはどうすればいいですかね。

諸葛 あの、ちょっと……

富田 はい? どうぞ、

諸葛 これまでの話に水を差すようで恐縮なんですけど、そもそもCIOっていう人たち、そんな知識あります? わたしがこれまで会ってきた人で、BABOKにせよPINBOKにせよ、ちゃんと勉強してナレッジとして持っている人ってほとんどいないですよ。その下の人たちはちゃんと勉強してますけど。上に上がって行く人は何にも勉強してなくて、なんも知らなくて、「教えて」とくる。そのギャップなんじゃないですか。だから話が噛み合わない。

会場から そのとおり。

富田 う〜ん。赤沼さんがおっしゃっていたように、IT知識もないのに肩書きだけ上に上がっていって……。そういうことなんですかね。

満川 自分の経験でいうと、ある会社の部長さんだったか、技術統括の現場責任者の方がおられました。CIOというわけではなかったんですが、実質的にCIOのようなことをなさっていて、彼はよく分かっていた。自分の考えをはっきり言う方なんですね。はっきり言うし、強い意志を持っているから、結果として大きな声になって、経営陣に伝わっていく。決して戦略的CIOがいないというわけではありません。

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(注2)BABOK https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%B9%E7%9F%A5%E8%AD%98%E4%BD%93%E7%B3%BB%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89

(注3)PMBOK https://ja.wikipedia.org/wiki/PMBOK 

IT戦略とITシステムは根本的に別物

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赤沼 そうすると、会社によるでしょうけど、出世する人って現場仕事しないで昇進試験とかは一生懸命やって、上の空気を読むだけで……となると、そういうポジションにいる人が全部ダメということになっちゃうわけですよね。どうしたらいいんでしょうねぇ。

満川 CxOにはそういう人が少なくないですよね。その下で実務を担っているCIO補佐、ITストラテジスト、IT部門長なんかが外部も巻き込んで、チームで進めていくのがいいのかなぁ。

赤沼 やっぱりチーム戦で行くしかないですかねぇ。 ただその場合でも、上の人の度量というかキャパが広くないとやりにくいですよね。先ほど日本の企業は組織じゃなくて忖度で動いている、という話をしましたけど、例えば部下から間違いを指摘されたりもっといい別の案を出されたりすると、怒り出す人がいるじゃないですか。自分が否定されたように感じちゃうんですよ。個人攻撃されているように思っちゃうマインド。

諸葛 うん、うん。

満川 わかる。

赤沼 外国の人、特にアメリカのエンジニアと一緒に仕事をすると、割とその辺のこと、切り離して考えている。だからこっちは楽なんだけど、でもやっぱり日本なんで、それは避けて通れない。それを前提にして考えていくしかないと思います。

富田 それって日本のいいところでもあり悪いところでもあると思うんですよね。

赤沼 そうそう。

富田 プロジェクトチームの全員が個人事業主というなら、プロジェクトが終わったら解散、でいいんだけれど、まだまだ終身雇用制が強いなかで、「みんなで力を合わせて」という企業風土がありますからね。それによって人材が継続するメリットがある反面、馴れ合いになってしまったり、スピード感に欠けるデメリットもある。会場の皆さんのなかで、規模の大きい会社にお勤めのかた、何か事例をご紹介いただけませんか。

 (会場沈黙)

赤沼 カンパニー制とか……。

 (会場で挙手)

会場G せっかくですから。えと、私が所属している会社はでかすぎて、部単位が中小企業みたいなものなんですよ。前者のCxOとかって雲の上の人なんで、実感がないんですね。カンパニー制というか部が一つの中小企業みたいなものだから、部長が社長みたいなもんで、見ているのはお客さんしかない。私なんかはお客さんのCIOの言うことは聞きますけれど(笑)。

赤沼 部長の属人性が強い?

会場G そうですね。ところで、CxOって偉いんですか? 知り合いに聞いたら、「CIOって何?」っていう反応でした。その人の会社で力があるのは財務の責任者だそうですし、だいたい国のIT担当大臣ってITに詳しいんですか?

 (会場爆笑)

赤沼 それって、この国では理系の人間が偉くなれないってことですよね? そう思いませんか?

会場H CIOって、チーフ・インフォメーション・オフィサー、つまりIT戦略担当の役員ですよね。でも実際にはITを理解していないし、いるとしたらIT部門の長という扱いでしょう。IT戦略とITシステムは違う。根本的に別物ですよね。小説家と鉛筆……というか小説家と鉛筆削りかな?(笑) それくらい違いがあるのに、道具としてのITを用意する雑用係みたいになってるんじゃないですか。本当はITを活用して価値を生み出すのがCIOであり経営者の仕事なのに、どこまで本気になって経営しているのか、という問題でもあると思います。

富田 そこに気付けない会社は崖から落ちることになりますよね?

諸葛 そうなんです。落ちてしまえばいいんです。

いまの会社、雇用制度がずっと続く?

諸葛 製造業に限らず、その問題に気がついた会社はまだ少数ですが、変わろうとしています。そういう会社はいちど痛い目にあって、潰れるか潰れないかまで追い込まれて、それでITの重要性に気がつくんです。だから崖から落ちないと分からないかもしれません。

富田 私もその通りだと思います。満川さんから意識改革っていう話が出ましたけど、現場より経営者の意識改革ですよね。そういう取り組みをなさっている会社はありませんか?

会場I 私は去年、転職して分かったのは、企業はある程度の規模になると縦割りになっていく、ということです。経営陣は「システムを刷新しましょう」と言うものの、財務会計をどうする、人事システムをどうするという話にしかならないんですね。規模が小さいと声が大きいかどうかより1人ひとりの役割が大きいので、波及力があるんです。

経営者が「いやぁ、我が社にもいよいよ国際化の波が来たなぁ」なんて言っているとして、それは2000年代からを指しているケースが多いんですが、実は1920年代、大正のころから国際化は始まっていると理解しているCxOはいません。だからたった5年先が読めない、読めないからIT戦略の意味が分からない。そういう循環です。訳のわからないことを話しちゃったかもしれませんが。

 (笑いと拍手)

富田 5年先って私たちも分からないですよね。だって10年前にスマホがこんなに世の中を変えるなんて予想できなかったんだから。それはそうなんだけど、でも変化に対応していかないと将来はないのも事実で、そういう目で見ると、大きな会社って、やっぱり動きが鈍い、のろいと感じます。

満川 大きな会社の場合、トップは意外と危機感があったりするんです。現場の課長ぐらいまではスピード感があるんだけれど、中間層、役員から部長クラスが鈍感でのろい。

富田 私がお付き合いしている範囲ですと、経営者が積極的にITを学ぼうとしている。そういう会社の場合はCIOなんて要らないんですよね。経営者のビジョンをITに落とし込む専門家がいればいい。

赤沼 そうじゃない会社が変わっていくには、社内ベンチャーとか? これまでの社内ルールから切り離して、その代わり5年で黒字のめどをつけろよ、ということになると、ITを活用せざるを得なくなる。

富田 社内ベンチャーって、石橋を叩きすぎて壊しちゃう的なこと、ないですか? 失敗しないプロジェクトじゃなくて、チャレンジが大事なのに。

諸葛 トライアルしながら利益を出していくスタイルにしないと、役員会で了解されないことが多いですね。日本の経営者はリスクを嫌いますからね。

赤沼 銀行がお金を貸すか貸さないか?(笑)

会場H これまでの話って、今の会社がずっと存続するという前提ですよね。そこ、どうなんでしょう。

富田 大学を出て会社に入って、最後まで同じ会社で、というこれまで美徳とされてきたことが崩れてますからね。

(これに関連して受託型ITサービス業のSES問題に話が及んだが、本題から外れるので割愛した)

ともあれ、時代はものすごいスピードで変わっている。その中で企業経営者の意識を変え、将来ビジョンをITで実現するための企画・立案を担うITストラテジストの役割がますます大きくなっていく、ということで(笑)、本日のパネルディスカッションを締めたいと思います。パネラーの皆さん、会場の皆さん、ありがとうございました。(拍手)

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前編(2019年11月16日:一橋会館)

http://interview.hatenablog.jp/entry/2020/02/07/144841

 

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