IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

【アーカイブス】ポストCOVID-19インタビュー:ソフト業の多重構造をどうしますか?

ソフトウェア業界の多重取引き(いわゆる多重下請け構造)の弊害が指摘されて久しい。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う経済活動の停滞で、マンパワー型の受託ソフトウェア開発業への影響が予想される。10年前のインタビュー記事なので現状と合致していないことが多いのだが、「そんな時代もあったよね」という意味で読んでいただけたらよろしいかと。(F氏は現在、本稿「団体」の代表者ではないので実名は伏せた)

仕事と技術者のお見合い

  ――この団体の母体が発足したのは1996年4月。ちょうど労働者派遣事業法が改定されたときでした。業界でこの団体は「どうせ下請け会社、派遣会社の集まりじゃないか」と見られていた。

 私どもメディアは口をそろえて「ソフト開発における多重下請け構造がいけない」と言うんだけれど、紋切り型のステレオモードになっていて、多重下請けの何が問題で何が良くないのかが議論されていない。ソフト開発業務が派遣法に馴染むのか、という問題もある。

 F ほんと、派遣法がケシカラン。ソフト業を派遣法の対象にするのが間違っているんですよ。

  ――その話は追い追い議論するとして……。だからといって私は現状を是認しているわけじゃないんですよ。ということを承知していただいて。《ソフトウェア業界における多重受発注構造の解消》がこの団体の設立主旨でしたよね。

 F そう。それを解消しようというのが主旨。今でもそれは変わってません。

  ――「仕事と技術者のお見合いの場」を提供する、ということですね。仕事というのはむろん開発案件ですが、元請的なIT会社が「こういう案件があるよ」という情報を出す。それを見た会員企業が「当社にこういう技術者がいるのでどうですか」と技術者のスキル表を送る。それによって案件と技術者のミスマッチがなくなる。さらに下請け構造を流動化することができる。基本的にはそういう考え方で活動している。

 F 分かりやすくいえば「中抜き」です。中間搾取といったら語弊があるかもしれないけど、いわゆる“ピンハネ”をなくす。この考え方が受け入れられたから、13年も継続してきたし、会員が増えている。ソフト会社にとっては、どこにどのような仕事があるのかが分かるということが最も重要ですから。

 仕事と技術者のミスマッチというのはスキルだけじゃなくて、金額もあれば勤務地もある。通勤時間がかかるっていうことは、会社からみれば通勤費がかかるっていうことだし、技術者にとっては就業条件が悪いっていうことになる。もらえるお金が良くたって長続きしない。

  ――私もその考え方を支持します。実質的には何もしないで、名目だけの管理費を取るのは中間搾取そのものでね。そういうブローカー的な会社がソフト業を名乗ってるから腹が立つ。その意味でこの団体が一定の役割を果たしたのは事実だと思います。

少しでも「有利な仕事」がほしい

 F 3月末現在(インタビューしたのは2010年)で会員企業の半数が地方の会社ですね。毎年100社以上入会してきてる。ただね、この景気後退がどう影響するか、ちょっと読めない。これまでだと、仕事がなくなってくると会員が増えてたんだけど、今回はどうですかね。会員が減ると運営に支障が出る。今のところ、影響は出ていないけど。

  ――仕事がいくらでもあればこの団体の存在感が薄くなる。なくなると会員が増えるっていうのは、会の主旨と矛盾しませんか?

 F どうして? 仕事がなくなるから会員になって仕事を探す。それでいいじゃない?

  ――だってこの団体はただ単に仕事を探す、技術者を探す場じゃないんでしょ? 中間搾取を解消しよう、受発注を健全化しようというのが主旨なら、仕事があってもなくても会員が増え続けていておかしくない。

 F それは理屈。実際はみんな仕事がほしいから参加する。仕事がたくさんあったらあったで、少しでも有利な仕事を取りたい。有利っていうのは、結局はお金。受注金額が高いほうがいいに決まっている。

  ――そうなると階層構造の問題なんかどうだってよくなっちゃう。仕事さえあればいいんだから。

 F この団体は仕事や技術者を斡旋する場じゃないんでね。仕事を出したい会社と受けたい会社が知り合う場を提供しているだけなんで、仕事のやり取りには関与しない。

  ――以前うかがった話では、団体として弁護士と顧問契約して、適正な取引きが守られなかった場合は仲裁に乗り出すんだ、ということでしたよね?

 F そんな話、ありましたっけ? よく覚えてないな。

  ――代金の不払いを解決することができた、って話してたじゃないですか。今はやってないの?

 F そういうことはやってないですね。取引きはあくまでも当事者間の取り決めでやってもらう。だから仮にトラブルが発生しても、それは当事者間で解決してもらう。いまやっているのは不正行為を起こした場合は除名する、ということかな。

  ――除名って、実際には年に何社ぐらい出るんですか?

 F 除名処分っていうのは、その会社にレッドカードを出すっていうことだからね。審判でもないものが退場を命じるのは慎重にならざるを得ない。理事会で決議できるのは「会則に著しく反した場合」に限られるから、年に1件あるかないか。

  ――会則に著しく反する、というのは例えばどんなケース? 「公序良俗に反する」とかいうわけじゃないでしょ?

”粗悪”を織り込み済みの取引慣例

 F そりゃ、犯罪行為とか法律的な不祥事ならかえって話は簡単ですよ。最近の除名でいうと、当会(うち)とおんなじことを始めようとか、分派活動とか。何年か前、任意団体からNPO法人に移行するとき、脱藩活動というか分派活動というかがあって、それを首謀した人を除名した。でもそういうケースは滅多に起きないよね。

  ――取引きを健全化するためという主旨に立ったら、契約違反を繰り返す会社はバンバン除名処分にして、要注意会社のリストを作ったらいいのに。団体のホームページでも「“粗悪”な協力会社、技術者の排除に努める」って謳っているじゃないですか。多重取引きの監視機構のような役割もあるんじゃないですか?

 F 団体としてブラックリストを作ろうとしたことはあるんですよ。でも理事会で拒否されてしまった。各社がすでに独自のリストというか情報を持っているし、それは各社の判断に任せるべきだということになって。なかなか思うようにはいかないんだよね。

  ――たしかに「ブラックリスト」っていうと排斥の意味が強すぎるけど、取引きをする際、“前科”があるかないかは参考情報になる。

 F ソフト業の場合はね、会社としての問題なのか、技術個人の問題なのかがはっきりしないんですよ。だって契約するのは会社だけど、トラブルを起こすのは主に現場の技術者ですからね。遅刻が多いなんていうのはマシなほうでね。急に出勤しなくなっちゃう、どこかにいなくなっちゃうんだから手に負えない。

  ――スキルギャップの問題は起こっていませんか?

 F スキルが要求レベルと合わないっていうのは、スキルに対する発注者と受注者の解釈の相違っていうこともある。技術者を出す方は「大丈夫だ」と思って出すんだし、受け入れ側だって面接した上で発注している。だいたい発注者も、どういうレベルのスキルが必要かがよく分かってないんだよ。

  ――急に出勤しなくなったり、どこかにいなくなっちゃうのは技術者個人のモラルかもしれないけれど、会社にも社員教育の問題があるんじゃありません? そういう技術者を雇って、教育もしないで現場に出しちゃうから問題なんでね。

 F 採用するとき、そんなの分からないですよ。派遣する方も受け入れる方も分かりっこないですよ。だってスキル表一枚だもの。もともとソフト業っていうのは、そういうことを織り込み済みで動いているんじゃないですか? そうじゃないとソフト開発の仕事は回らない。

 

続きは

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