IT記者会講演再録

IT記者会Reportに掲載したインタビューと講演再録です

【アーカイブス】ポストCOVID-19インタビュー:ソフト業の多重構造をどうしますか?(3)

堂々と主張したらいいのに

  ――だったら正々堂々と、120万円を請求したらいいじゃないですか。本来だったら120万円もらう仕事なんだけど、60万円でやってるんだ、なんてのは自己欺瞞ですよ。実際に現場で汗を流している技術者のことを考えたら、経営者は我が身を盾にしてそれを主張しなきゃならない。違いますか。

 そんなこと言ったって、現実には無理じゃないですか。マスコミはいつも無責任に「下請け構造が悪い」って言うけど、下請けが機能しなかったら困るのは元請けだからね。

  ――そうまで言うんなら、ストライキでもデモでもやったらいい。昨年の秋から新聞やテレビが派遣労働者が解雇されて路頭に迷っている、って報道してるでしょ。たしかにメディアは無責任かもしれないし、大衆に阿ったかもしれないけれど、無責任だからこそ言えることもある。救われたのはごく一部かもしれないけれど、企業の人員整理にブレーキをかける効果はあったし、利益追求の派遣会社や拝金主義的経営思想を見直すきっかけになった。でも当の派遣労働者たちは決起してない。日本じゃなかったら全国に暴動が起こってますよ。

 私に言われても困っちゃうな。分かってほしいのは、我われは会社を維持していくのが精一杯ということなんですよ。偉そうなことを議論している余裕はない。ソフトウェア工学がどうのこうの、技術者教育がどうのこうの、そういうことがやれたらいいとは思いますよ。そうは思うけど、そんな余裕なんてない。だからまず仕事を確保できる場を作る。それはいけないことですかねぇ?

  ――いいことに決まってるじゃないですか。だから私は団体の活動をウォッチしてきたし、こうしてインタビューにきたわけです。ただ現状を追認して「仕方がない」と言っているだけでは、この景気後退の波は乗り切れないだろうと言っている。

本当に困るのは元請けSIerか

 乗り切れない会社がボロボロ出るでしょうね。今の利益率で仕事がなくなったら、社員はすぐ金食い虫になってしまう。だから辞めてもらうしかない。もうあちこちから倒産や事務所の閉鎖の情報が入っている。でもそれは、資本主義の原理で仕方がないんでしょう?

  ――そういう会社を一時的に救ったところで延命するだけだから。景気が良くなれば同じような会社がまたポコポコ生まれてくる。

 それならそれでいいじゃない。そういう会社があるおかげで大企業は利益をあげている。だから、この構造はちょっとやそっとでは変わらない。

  ――私が苛立つのはね、この団体が多重取引きの解消に役立ってはいないかもしれない、ということです。むしろ拡散させ、多重取引きを深化させているんじゃないか。この団体が「潰れる会社はどんどん潰れていけばいい」って腹を決めてね、むしろ戦闘的に多重取引き問題に取り組んだら、業界は少しは変わるかもしれない。

 下請けを拡散させている面があることは、ある程度は認めざるを得ない……かな? でもそれでいい、って言ってる会社があるんだから。中には給料が出せればいい、って言って人月30万円台で仕事を請けてる会社もある。それが業界全体の受注単価を引き下げていて、自分で自分の首を絞めていることはみんな分かってる。でも「じゃいいですよ、中国もあるし、ベトナムもあるから」って言われたら請けないわけにはいかない。それが現実。

  ――そんな仕事はいらない、とは言わないの? 言っちゃえばいいのに。困るのは元請けなんでしょ? でも本当のところ、会社が潰れて困るのは「オレたちは下請けで苦労ばっかりしている」とこぼしているソフト会社の経営者じゃないんですか? 表向きは「人財」なんて言いながら、実は派遣要員はお金を集める手段に過ぎないんでしょう?

ユーザーを巻き込まないと

 そういう経営者がいるのは事実でしょうね。ITなんて関係なくて、実は水商売でも運送業でも何でもいい。儲かるからやるんだ、っていう人がいないわけじゃない。でも団体としては、会員なら平等に扱わざるを得ない。

  ――結局、足元を見られちゃってる。本当にソフト技術で仕事をしてれば、労働対価みたいなことにはならない。少なくともIT技術者がブルドーザーやクレーンの操作技師並みに扱ってもらえないと、そうしなければ団体は何のために存在するのか、ということになる。

 そこまで言われちゃうと、ちょっとは本音を言わないといけないな。私のアイデアは否決されることが多いんで、あくまでも個人的な意見でしかないんだけど、これまでのように業界大手から案件情報を出してもらうスタイルでは限界があると思ってるんですよ。  実際、去年まで大小取り混ぜて毎月100件ぐらい案件を出してきた大手SIerが今年に入って内製化しちゃってね、案件情報が激減している。こうなったらユーザー企業を会員にするしかないかな、と思っている。繰り返すけど、あくまでも個人的な考えですよ。

  ――ユーザーを巻き込むっていうのは、いいアイデアだと思います。賢いユーザーなら団体の会員企業を活用しようとするでしょうね。そうすることで二重派遣とか、不明瞭な仕事の流れとかが少しでも解消する。

 ユーザーにとっても、実際にプログラムを作ってもらう会社とダイレクトに向き合える。元請け、2次請け、3次請けに取られている管理費がなくなって、ユーザーが払うお金はこれまでより2割も3割も安くなる。仕事を受ける方もこれまでより1割、2割高くなる。双方にいい。ただリスク管理をどうするか、という問題は残る。時間はかかるかもしれないけど、この景気だもの、何か手を打たなくちゃ。

  ――そこまで踏み込むんなら、ソフト業界の多重取引き解消に向けた提言とかメッセージを出してもいいじゃないですか。

F いやいや、この団体がそんなことやったら大変なことになる。私だって自分の会社があるからね。提言とかは我われの役割じゃないですよ。

  ――じゃ、その憎まれ役は記者会がやるとして、技術者をたいせつにしてソフト開発に取り組んでいる企業が少しでもユーザーに近づけるようにね。そのためにユーザーを巻き込む件、ぜひ進めてくださいね。

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インタビューを終えて:インタビューをしながら、ちょっと酷な質問をしているなぁ、と感じたのが実際だった。F氏が悪いんじゃない。ソフト業界の下請け構造が解消すればこの団体はもっと違った活動に軸足を移していくだろう。

 

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